山梨県菓子店

2014.08.15

あべかわ餅、雑感

黒蜜をかけるのが山梨流

 

あべかわ餅 山梨の、特に甲府盆地では、お盆の時季にあべかわ餅を食べる習慣があります。「あべかわ餅」というと静岡名物で、つきたてのお餅にきな粉と上白糖をまぶしたものと、小豆のこし餡を絡めたものの2種類を詰め合わせたものを、イメージされる方が多いかもしれません。しかし山梨のあべかわ餅は、つきたてのお餅を伸して四角に切ったらきな粉をまぶし、その上に黒蜜をたっぷりとかけていただきます。いや、先に黒蜜をたっぷりとつけてからきな粉をまぶすという人もいます。先にきな粉をまぶしてしまうと、その上にかけた黒蜜を弾いてしまうからという理由なのだそうですが、私にしてみれば、どちらでいただいても間違いなく美味しいのですから、大きな問題ではありません。

 いつ頃から山梨にあべかわ餅文化が根付いたかは、これといった文献も残っておらずよくわからないのですが、その名前から判断して静岡から入ってきた事は間違いないでしょう。その本家本元は、徳川家康がこの餅をいたく気に入って安倍川餅と名付けたという説がありますので、少なくとも江戸時代には既に存在したのでしょう。

 ご存知の通り海のない山梨は、駿河湾に揚がった海産物を行商人が甲府盆地まで運びます。(ちなみにアワビが傷まないよう樽の中で醤油に漬けて運搬し、甲府に着く頃味が染みて、丁度食べ頃となった事からあわびの煮貝という特産品が、海のない山梨で完成されたのです!)彼らが手土産に安倍川餅そのものを、あるいはその情報をもたらすということは容易に想像がつきます。

 ただ、残念な事に、当事貴重だった白砂糖は、大御所様のお膝元駿府や駿河にはふんだんにあっても、徳川に負けて天領となった甲斐の国には少なく、結果、上質な餡を炊く事もままならず、代替品として黒蜜を使わざるを得なかったのでしょう。

 お盆というと多くの方が8月を想像すると思いますが、山梨の一部地域(塩山など)では、7月にお盆の行事を行うため、私共餅屋は7月に入るとあべかわ餅の準備で忙しくさせていただいています。そして8月に入るといよいよ本番です。8月11日から4日間、工場は24時間フル稼動。アルバイトの皆さんにも手伝っていただき、つきたての美味しいお餅を、消費者の皆様に確実にお届けできるよう最善を尽くす例年行事となっております。

 ところで、甲府生まれ甲府育ちの私の義理の母は、盆飾りの真菰(まこも)の上に定番のキュウリやナスで作った馬、牛のほか、ブドウの葉を1枚敷きその上に黒蜜ときな粉をつけたあべかわ餅を載せてお供えします。いかにも山梨らしくて、うだるような暑い夏の甲府にあって、唯一私が清々しく感じる日常のひとコマでもあります。決まったやり方などはありませんが、きっとこれが正しいあべかわ餅のお供え方法だと、信じて止まない福島生まれの私なのです。

 株式会社平和堂・大沼美洋