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冬の山梨、切山椒

~「私」が試される菓子~

切さんしょう 山梨県は甲府盆地を主に国中(くになか)といい、それ以外を郡内(ぐんない)といいますが、この国中地域で冬になると好んで食べられる郷土の菓子が「切山椒」です。表記は「切山椒」や「切さんしょう」など様々ですが、私たち製造する側はこれを「きりざんしょ」と発音しやすく短めに呼びます。

 原料は主に上新粉、砂糖、山椒の汁や粉で、これらを蒸し上げたら白のほかに赤や緑、茶色を着けてカラフルにし、短冊に切って包装したら、あとは県内各スーパーに並べられるのを待つだけです。

切さんしょう さて、この切山椒は由来などあまり歴史的背景が知られていません。これ自体に関する文献も乏しく(もしかしたら私が知らないだけかもしれませんが…)弊社社長に聞いても周りの地元の方に聞いてもよくわからず、とにかく昔から好んで食べられたものであることだけは確かなようです。また、短冊に切った形は拍子木に似ており、火災の多い冬のこの時期、火の用心の思いを込めたとか、棄てる部分の無い山椒を使った菓子を切った形で頂くため、切り回しがよくなるように、すなわち物事を巧みにこなせるようにとの願いが込められているとも言いますが、これはどうもこじつけのような気もします。

 ここからは私の個人的な考えですが、山椒のように強い香りを用いた菓子が、特に節分のお祭りで爆発的に売れている点から、この香りで邪気払いを勧めながら昔の菓子屋が商いをしたのではないかと思うのです。

 また、切山椒の発祥の地もきっと山梨県だと思います。江戸時代、甲斐の国は天領、即ち江戸幕府の直轄地でした。故に定期的に江戸から甲府へ役人が派遣されていました。そして任期を終えて江戸へ戻り、冬になるとあの懐かしい甲州の切山椒を思い出し、江戸の菓子屋に作らせたりしたのでしょう。

 しかし、残念ながらこれが日本全国に広まることはありませんでした。私が知る限りでは、新宿の花園神社で弊社の商品を、それ以外のものなら浅草の酉の市でお求めになれます。他に山形県や神奈川県にも切山椒を作る菓子屋さんがあるようですが、いずれにしても全国的に知られたものではありません。その理由は、やはり山椒の香りにあると思います。好きな人はとことん好きになって頂けますが、嫌いな方は一切受け付けないでしょう。因みにこれを書いている私は、福島県で生まれ育ち、甲府に来て初めて切山椒なるものの存在を知りましたが、正直に申し上げますと、製造に携わって十年、未だに苦手なのです。工場に充満した山椒の香りを嗅ぐと、少し頭痛すらする始末。これが美味しいと思えなければ真の甲州人にはなれないのでしょう。それまでにはもう少々時間がかかりそうです。

 山梨県菓子工業組合・株式会社平和堂・大沼美洋

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