山口県菓子店

2014.01.15

老舗「松琴堂」

一子相伝を守る細腕繁盛記

六代目西原由実さん(中央) 自然と歴史と人が織りなす交流都市、下関。西は日本海、南は瀬戸内海。人口28万人足らずの本州最西端の市です。関門海峡や角島の自然に毛利家をしのぶ長府城下町の歴史。新鮮な海産物が揃う唐戸市場の賑わい、釜山を思わせる焼肉店がひしめくグリーンモール。このように自然と歴史と近代化が交錯する下関において、慶応年間に創業した県内随一の老舗「松琴堂」を訪ねました。風格ある店の歴史は150年になります。

 言わずと知れた代表菓は「阿わ雪」。長州藩士伊藤博文公が「口中で消えゆく感じは春の淡雪を思わせ菓子の中でも王の冠たるもの」と命名された一子相伝、門外不出の逸品で大正15年に昭和天皇が皇太子時代に下関を訪れて以来の献上銘菓です。

 その味を守り抜く使命を背負っているのは、六代目西原由実さん。老舗の跡取り長女として生を受けました。幼い頃から商売の心掛けを学んでいたものの、まだ先のことと思っていた大学生の時、父親から一子相伝の製法について伝授されました。そのとき後継者の覚悟を決めたそうです。由実さんいわく「観念した」とのこと。卒業後、そのまま家業に従事。後継者として父親から指導を受け、同じものを作り続ける難しさを乗り越えてきました。心意気はあるのに店頭では若さゆえに、お客様から慶弔の相談時にお母さんを呼んで、と何度も言われてきたことが忘れられず、40を過ぎた頃から、見た目の信頼がやっとついてきたと笑います。

 授かった子宝は4人。23歳、21歳、20歳、18歳。奇しくも全員お嬢様でした。子供のことより従業員と店を最優先させ、母からの期待を背負い叱咤激励を受けながら必死でここまできました。子育て中はやつれていたかも・・とのこと。今、家業を共にするのは和菓子の専門学校卒業後製造を担う次女(写真左)と販売を担う四女(写真右)。税理士の資格を取得した長女は経理面をサポートしています。娘さん達のおかげでようやく自分の時間が少しずつ持てるようになりました。

 家人だけに伝わる一子相伝の味と真心を娘の誰かに伝えるその日を願いながら「誠実にお客様の喜んでもらえるものを作っていく」創業以来、培われた老舗のしきたりと地域との信頼関係を大切に、未来永劫謙虚な商売を続けることが願いです。

 ◆取材後記◆

 老舗の舵を取る跡取り娘さんの話を聞きたいと取材にお伺いしました。接客の物腰柔らかさや言葉遣いはまねできるものではありません。年を取ること=お客様の信頼を得る=子供が成長する=悪くないむしろ素晴らしい、菓子屋として年齢を重ねることに対する気持ちは共通していました。楽に商売できた時代を知らないと言いながら和菓子を中心に新しい味や販売方法の探求も怠っていません。年の近い4人を育てながら作って売って帳簿付けて、優雅に見えて水面下で激しく足を動かす白鳥のような印象を受けた由実さんでした。今は4人の娘さんと過ごすことが一番楽しいそうで、この記事が菓子屋の娘さんやお嫁さんの励みになることを祈りつつ。

 山口県菓子工業組合専務理事・恒松恵子

 

店舗データ

松琴堂
住    所‥山口県下関市南部町2-5
電    話‥083-222-2834
ホームページ‥http://www.shokindo.co.jp