視点

TPP交渉の行方(平成25年12月)

 7月にわが国が交渉に参加し、年内に最終決着させるとされているTPP交渉が進んでいる。10月8日インドネシアのバリ島で開催された首脳会合に、米国のオバマ大統領が議会対策に足をすくわれる形で出席できなかったこともあり、年内の最終決着は困難な状況となってきているとも報道されていた。特に物品市場アクセス(関税の撤廃等)は、各国がセンシティブな品目を抱えており、知的財産、国有企業の扱いを含む競争政策等と併せ来年に先送りされるのではとの報道もなされていた。12月10日閉幕したシンガポールでの閣僚会合は、これら報道のとおりとなり、来年1月に再度開催することとされたものの、相変らず内容は不明である。

 日本は、いわゆる重要5品目について、関税撤廃の例外とするよう求めていくとのことであるが、5品目のうち米、麦、砂糖、乳製品の4つはいずれも菓子の主要原料である。中小菓子製造業は地域に立脚し、伝統的に地域の農産物を原料として製造販売を行ってきている。したがって、国内農業が健全に発展し、原料農産物が安定供給されることを望んでおり、国内農業と運命共同体的な関係にある。

 一方、政府は自由化率を高めるため、これら5品目の周辺品目を関税撤廃の対象とするべく検討を始めたとも報道されている。そもそも5品目といっても、関税分類上の細目では586品目あり、そのうち200品目程度を自由化の対象とするとのことである。しかし、この586品目とは具体的にどういった品目なのか不明である。農林水産省に問い合わせても、公表しておりませんという返答しかない。これまでも色々な貿易交渉が行われてきたが、ここまで中身の分からない交渉はなかったのではないか。

 交渉の結果を予測することは困難であるが、仮に菓子の関税が撤廃の対象になり、原料である5品目が例外となった場合には、国内菓子業界、特に中小菓子業界は輸入菓子に対して圧倒的に不利な条件に置かれ、国内菓子市場におけるシェアを大きく落とすことになりかねない。そのことは、国内農産物に対する需要の減退を招き、守るはずのものが守れないということになるのではないか。11月11日に菓子業界が農林水産大臣に提出した要望書に記載されている通り、原料と製品である菓子類との国境措置のバランスが維持されないのであれば、国内菓子製造企業に対して砂糖の調整金、麦のマークアップを減免するなどの特別対策が必要になるのではないか。菓子は嗜好品でもあるので、本当に怖いのは、国内のメーカー等による逆輸入である。

 ここで、ウルグアイラウンドにおける米の取扱いを振り返ってみたい。ご承知の通り、ウルグアイラウンドでは、米については関税化原則の例外として、関税化すれば1年目に国内消費量の3%、32万トン、6年目に5%(年0・4%ずつ増加)、53万トンのミニマムアクセスの設定で済んだものが、関税化に対する国内の強い反対のため、同期間に4%、43万トンから8%(年0・4%ずつ増加)、85万トンへと過重なミニマムアクセスの設定を受け入れざるを得なかった。しかし時の推移とともに、過重なミニマムアクセスは不利と判断されるに至り、5年目の1999年度当初には米も関税化され、6年目の2000年度の輸入量は約77万トンと約8万トン減少することとなった。その後、現在までこの数量が維持されているので、5年目に関税化しなかった場合に比べ2013年度までの輸入量を約123万トン少なくできている。しかしながら、最初から関税化が行われていれば、同期間に更に約530万トン少なくできたことになる。わが国は関税化阻止という名を取り、余分な輸入という実を輸出国に与えたことになったのではないか。それは後知恵と言われればその通りであろう。

 今回も、米国に特別の輸入枠を提示との案が検討されているとの報道もあるが、他の国々が納得するかという点はおいておくとしても、同じことの繰り返しのような気がするが、如何なものであろうか。

 もちろんいきなりは無理であろうが、早急な構造改革の推進と今回のコメの生産調整の見直しに合わせ農地の多面的機能に着目して農地の維持の観点から創設された日本型直接支払制度などを通じ、商品の価値に対する対価である消費者負担から納税者負担への転換を進めるという手法も一考の余地があるのではないだろうか。いずれにしても、国内の農業と中小菓子業界が共存共栄可能なものとなることを切に希望するものである。

 全菓連専務理事・山本領