視点

消費税とデフレ脱却の正念場(平成25年8月)

消費税転嫁対策特別法(略称)が先の国会で成立し、この10月1日から施行される。すでにマスコミ等で報道されている通り、本来消費者が負担すべき消費税に関し、その適正な転嫁に中小事業者等から懸念が示されていることに対応するため、法律には①転嫁拒否等の行為の是正、②転嫁を阻害する表示の是正、③価格の表示、等に関する特別措置が規定されている。

現在、法律の運用の透明性を確保するために、その具体的内容を定めたガイドライン(案)が消費者庁、財務省、公正取引委員会から8月23日までの間パブリックコメントに付されている。

転嫁を阻害する表示に関する消費者庁のガイドラインには、禁止される表示を定めた法の第8条、特にその第2項の「…消費税との関連を明示しているもの」との規定に従い、消費税との関連を明示した表現は禁止されるものの、企業努力による価格設定自体を制限するものではないとして、「春の生活応援セール3%値下」、「新生活応援セール8%引き」のようにたまたま税率が一致するだけで直接消費税と結びつけない表現は許されるとのことである。しかし、これらの表現は少しでも想像力のある人なら、消費税分を値引きしますと言っていると理解するのが普通だと思うのだが、すでに法律上決着が付いているということなのであろうか。

また公正取引委員会のパブリックコメントでは、量販店、コンビニ等の大規模小売業者等が、その優越的地位を乱用して消費税の転嫁を拒む「取り決めた対価の減額」、「買いたたき(コスト低減等の合理的な理由がなく消費税を加えた額より低い価格を設定)」等を禁じている。一方、「買いたたき」とならない合理的理由がある場合として、原材料価格等の下落、大量発注等により、客観的に生じているコストの削減効果を当事者間の自由な価格交渉の結果対価に反映させる場合及び法の施行日(10月1日)以前に当事者間の自由な価格交渉の結果、原材料の市価を客観的に反映させる方式により対価を定めている場合を示している。相手が明示的に値引き等を要求するのではなく、供給業者から入札させる場合などはどう判断すべきなのであろうか。

いずれにしても、疑問が生じた場合は遠慮せず公正取引委員会の窓口等に相談、情報提供すべきであろう。

さて既に8月中旬である。この4~6月の経済成長率の第1次速報値が公表される時期である。来年4月からの消費税率引き上げについて、最近の総理、官房長官の発言では、政府としては9月に発表される第2次速報値も見て10月に慎重に判断するとのことである。一方、財務大臣は来年4月からの消費税3%引き上げは国際公約であると発言されている旨伝えられている。しかし、国際公約の第1は日本経済のデフレからの脱却による安定成長の達成ではないのか。だからこそ大胆な金融緩和の結果としての円高是正にも国際的な理解が得られたのではないのか。

我が国のGDPの推移をみると名目では1997年の523兆円をピークに2003年の499兆円まで一貫して低下を続け、その後07年には513兆円まで回復したもののリーマンショックにより再度低下に転じ12年では476兆円と97年対比91%の水準となっている。一方、物価変動率を勘案した実質ベースでみると同じ時期に97年の475兆円から99年に464兆円まで減少後回復に転じ、07年には524兆円に達したが、リーマンショックにより再度減少に転じ09年の490兆円を底として12年には520兆円と97年対比109・5%の水準となっている。これをGDPデフレータで見てみると、既に94年以降低下傾向にあったそれは97年の110・19から一貫して低下を続け、12年には91・58となっている。つまりは、97年の消費税の引き上げが、15年にわたるデフレを決定的なものにした大きな要因であったということではないか。これに対し、1984年に消費税を導入した際にはそうはなっていないので、消費税の引き上げがデフレをもたらしたとは言えないという主張もあるが、当時は4%前後の経済成長と2%前後の物価上昇が続いており、まさにそれを飲み込めるだけの経済情勢にあったということではないか。

財務大臣は、高橋是清の政策を参考にしているやに伝えられているが、31年末の金輸出再禁止により円の為替相場は2分の1になり、当時の名目GDPが29年の水準を回復したのは35年であったことを考えると、今回はわずか1年でデフレ政策から脱却できるとは思えないし、現に、政府の経済成長率見通しも13年度は名目が実質をわずかに上回る程度と見ており、デフレから脱却できたと云えるほどのものではないと思える。また、新聞紙上によると浜田宏一内閣参与は、増税時期の1年間先送り、あるいは1%ずつ段階的に引き上げる案もある旨発言されている。いずれにしても政策当局には鶏の産卵能力を落とさないよう、十分慎重に見極めていただきたいものである。

総理はすでに三方ヶ原を経験されている。再登板され、デフレを克服し、力強い日本を取り戻すことを自らの天命と自認される総理にとって、まさに天下分け目の関ヶ原に臨まれているようなものであろう。我が国にとってこれが最後の正念場のように思えてならない。安倍総理には、松尾山に撃ちかけた家康のような胆力と決断を心から期待するものである。

 全菓連専務・山本領