視点

優先順位の第一はデフレ克服(平成22年3月)

― 求められる新たな需要の創造 ―

最近よく引き合いに出されるが、『この世に生き延びられるのは最も強い種でもなく、最も賢い種でもない、変化に最も適応できる種である』とのC・ダーウィンの言説ほど、いまの日本にとって耳の痛い話はない。鳩山新政権がスタートして半年。将来不安に対して晴れ間が少しは見えてきたのだろうか。残念ながらノーの答えしか伝わってこない。生活を支える経済の立て直し、デフレ克服に向けた政府の政策メッセージが国民に少しも伝わってこないからである。

デフレ(デフレーション)とは、もの(商品)が売れず、物の値段が下落に向うことをいう。商品を生産し、提供できる量(供給能力)に対して、それを消費、購入する量(需要)が足りない。結果として、商品の値下がり↓企業収益の悪化↓コスト削減、賃金の抑制・リストラ↓雇用所得の減少↓消費の縮小(新たな商品開発のための企業の投資も抑制される)という悪循環(デフレ・スパイラル)に陥る。わが国経済が『失われた20年』と称され、長期にわたって低迷してきた原因の根底もそこにある。これまで、金融、財政両面にわたって様々な対策がとられてきたが、功を奏しなかった。何故か。詰まるところ、売れないものを売ろうとしてきたからではないのか。EU諸国などの間にも最近そうした考え方が出てきた。効率優先から地域、生活重視の新たな需要創造を目指すべきではないかとの議論である。

中国などアジアを中心とする新興国の台頭という環境変化もある。不況からの脱出に苦しむ先進国とは対照的に今や世界経済の牽引力となってきた。資本の流れが変わり、新興国が強力な競争相手として浮上してきたことも無視しえなくなってきている。

そうした中、昨年12月に新政権は経済政策の基本方針として「新成長戦略」を公表。モノづくりや地域の多様な自然・文化など、わが国の強みを活かして潜在的な成長分野を開拓していこうというもので、(1)環境・エネルギー(グリーン・イノベーション)、(2)健康(ライフ・イノベーション)、(3)アジア経済との連携、(4)観光立国・地域活性化、(5)科学・技術、(6)雇用・人材という、6つの重点分野を提示。向こう10年間に平均して名目3%、実質2%の成長を実現していくとしている。

そもそも政権交代は国民の暮らしへの将来公約によって、実現したはずである。にもかかわらず、肝心の処方箋たる「新戦略」についての議論が国会でもあまりなされていない。何故だろうか。

最大の理由は、「新戦略」から国の将来像(目標、 ビジョン)が見えてこないからではないのか。地域主権の流れはよいが、単に自助、自立の掛け声だけでよいのだろうか。中小企業、農業のインフラ整備は今後とも重要であるし、地方再生には草の根イノベーション(技術革新)の原動力となる人的資源の充実が何よりも欠かせない。今後の人口減少という厳しい条件を考えるとアジア経済との連携は重要であるが、どの分野でどういう可能性があり、どのような政策を進めていくのか分かりにくい。将来ビジョンが具体的に見えてくるよう議論を深めていくことによって、これからの需要創造の鍵をにぎる教育、人材育成の枠組み(スキーム)、施策の方向も浮かび上がってくるのではないか。

長引く不況の下で多くの中小菓子製造業者は苦しい経営を強いられているわけであるが、例えば、上記の「新戦略」にいう観光立国に即していえば、中小菓子業界には『不易流行』(昔を今に活かす)の伝統があり、地域に根ざし切磋琢磨して地域の歴史、文化を担ってきた強みがある。数年前、旅行中に出会った中国青年によれば、次に日本に行ったらNHKドラマ「おしん」が育った山形を是非とも訪れてみたい、であった。アジアからの観光ツアーで地方を訪れるケースも徐々にではあるが増えてきている。政策的な交通アクセスや景観などのインフラ整備と地元の創意工夫によって受入客数の一層の加速化が期待できるのではないか。その延長線上に地域に軸足を置きつつアジア市場に進出していくという可能性も生まれてくる。そのことも含めて、これからの地方再生、新たな需要創造に向けて菓子製造事業者への期待は大きい。

全国菓子工業組合連合会 専務 矢部正行