視点

食品表示新法に求められるもの(平成24年11月)

― 分りやすさを第一に安心の向上を ―

新しい食品表示法が制定される。消費者庁では目下、来年3月までに法案を国会に提出すべく準備作業を進めている。新法制定の趣旨は、現行の食品衛生法、JAS法、健康増進法の三つの法律の中から表示に係る部分を取り出して一つの法律にまとめ、新しい表示制度を定めようとするもの。昨年秋以降、有識者で構成する検討会で各界との意見交換を行い今年8月に報告書を取りまとめた。同報告書の大要は次の2点。一つは消費者にとって見やすい、分りやすい表示をどう実現できるか。もう一つが前者と相矛盾する栄養成分表示の義務化である。栄養表示の施行は5年後とする。加工食品の原料原産地表示、遺伝子組み換え表示などについては結論が得られず、別途検討ということで棚上げとなった。この間、全菓連では関係団体、国・与党等との意見交換を含め、各県組合の協力を得ながら国に対して意見提出を行ってきたが、法案とともに具体的な制度設計の決め手となる内閣府令等の内容がどうなっていくのか、今後の動向を注視しつつ必要な対応を行っていかなければならない。

これまでの全菓連の意見は大きくは次の三点。第1は全菓連が事あるごとに主張してきた表示項目。新たな食品表示は、表示事項を絞り込んで、文字を大きくし消費者に分かりやすい内容にすることを最優先とすること。すなわち、義務表示は名称、原材料、内容量、製造者などの一般的事項やアレルギー表示等健康危害に重要な影響及ぼす事項に絞込み、それ以外の事項については事業者の自主的努力を助長する方向で任意表示とすべきではないかという主張である。

第2には、栄養成分表示については、従来通り基準を定めて任意表示とすること。菓子はそれぞれの地域で生産された農産物を主原料とすることが多く、農作物は収穫年によって品質の状態が異なる。また、使用される原材料の種類、産年、品質、使用方法により栄養成分の数値は異なってくる。更に、季節ごとの温度や湿度の状況に合わせて、原料の配合を変更することがあり、栄養成分表示の正確性を担保することはできない。しかも、全国に数多く存在する中小菓子製造事業者は地域の食文化、伝統技術をもとに様々な特色のある商品を製造販売し、地域経済、生活文化に大きな役割を果たしているが、栄養成分表示の義務化は、これら事業者に多大な負担を強いることとなり、経営の存続すら危ぶまれることになりかねないからである。

第3は原料原産地表示の問題。報告書では別途に検討することとされたが、消費者団体など一部からは政治決断すべしとの声もある。菓子は加工度が高く、多くの原材料を使用している。しかも、作柄・価格の変動などによって頻繁に原材料の変更を求められ、その都度、表示ラベル、包装を変更することは物理的にもコスト負担の面からも対応不可能であることを引き続き強く訴えていかなければならない。

食品表示には本来、二つの機能が求められる。第1は、人の生命を支える食品の安全性の確保。事故発生への迅速な原因究明、製品回収の情報源となることはもちろんであるが、消費者側からすれば、商品の名称、賞味期限、原材料、製造者名などの情報は商品の素性を知る唯一のよすが。換言すれば、「安心のパスポート」の役割を果たしている。パスポートは製造者の責任が前提となっている。だからこそ、消費者にとってみれば、「見やすい、分りやすい」表示が優先して求められるわけである。

もう一つの役割が消費者の自主的かつ合理的な選択機会の確保。生活の質の向上という表示の目的からして、栄養成分の表示が直ちに否定されるわけではもちろんない。しかし、そのために「見やすい、分りやすい」という消費者のニーズが犠牲になるとすれば、本末転倒といわざるを得ない。義務表示には事業者の実行可能性が不可欠である点も忘れてはならない。欧米などに比べてバランスのとれた日本の食卓は、多様な自然条件の下で営まれる地域の農水産業と食品産業を抜きにしては語れない。新しい食品表示には単に消費者の知りたい権利だけではなく、そうした視点も含めた日本独自の制度設計、工夫が求められるのではないか。消費者の安心の向上には同時に、消費者情報の高度化に向けた事業者、消費者双方の自主的な努力が合わせて必要であることはいうまでもない。

 全菓連専務・矢部正行