視点

なぜ原料原産地表示なのか(平成21年6月)

― 加工食品の表示問題 ―

米のトレーサビリティ法(「米穀等の取引等に係る情報の記録及び産地情報の伝達に関する法律」)が今国会で成立した。同法律は昨年の事故米事件の再発防止を目的とし、米および米加工品の生産・流通履歴を遡及、追跡でき、合せて米の原産地名を消費者に伝達するという仕組みを構築しようというもの。全菓連では中小菓子業者にとって製造や取引情報の記録・保管、伝達に過大な負担がかかるとして制度の導入に反対してきた経緯があり、導入が避けられないとしても対象品目の範囲などの調整が必要との申し入れを行っているところである。制度の詳細はこの夏までに定められ、実際の運用は1、2年先ということになっているが、同法案審議の過程で思いがけない出来事があった。『飲食料品の取引記録(食品トレーサビリティ)の義務化と合せて加工食品の原料原産地表示の品目範囲の拡大を検討すべし』との修正条文が、突如附則として盛り込まれたのである。

昨年1月の中国産冷凍餃子事件の衝撃がその主たる背景となっていることは間違いない。しかし、修正条文にいう加工食品の原料原産地表示の範囲の拡大は本当に可能なのだろうか。原料原産地表示は現在、生鮮食品のほか、餡、もち、煎り落花生などの20品目群と冷凍野菜などの4品目が義務化されている。加工食品についてはいずれも、加工度の低い生鮮食品に近い食品に限定されている。

まず第1に、そもそも欧米諸国にはない原料原産地表示制度がわが国になぜ設けられるようになったかという議論がある。輸入農水産物の増大という問題もあるが、消費者の商品選択に資するというJAS法の目的からいって、食卓の素材である農水産物の素性(産地・食味)が従来から重視されてきたという いわばわが国固有の食文化への配慮が現行制度の根底にあるからである。本来、安全性とは関係ない。

第2は、JAS法の表示制度は容器包装という限られたスペースを前提とするものであり、情報量には限りがあるという問題である。安全性に係わる優先されるべき情報との関係もある。さらに、原材料の切り替え等に対応して産地表示をその都度変えなければなければならない事業者側の負担、ひいては社会的コストがいたずらに増加してよいのかという問題もある。

全菓連では「食品表示は消費者、製造業者双方にとって分かり易く簡素な形で、かつ、恒久的な制度が望ましい。」との主張を一貫して行っている。その立場は今も変わりない。ただ、そうはいっても今一度考えておかなければならない点は、加工食品、外食の増加という食の外部化の進展に伴って生産と消費の距離が拡大し、消費者の「安心」(知っている)という社会的基盤の揺らぎが強まっており、事業者と消費者との信頼関係の構築が大きなテーマになっていることである。東京都では今月から調理冷凍食品の原料原産地表示の義務化をスタートさせたが、大手メーカーなどによるネット情報や電話対応という例外規定の活用も、知りたいニーズへの対応という点で一つの方向性を示唆していると思うのだがどうだろうか。リスク・コミュニケーション(情報共有)、顧客との対話は地域密着型の中小菓子業界にとってもこれからの大切なテーマ。店舗づくりや顧客対応の仕方などの個別対応はもちろんのこと 様々な手法を通じた情報提供のあり方について業界として知恵を出していかなければならない。

全菓連専務・矢部正行