視点

日本の「おもてなし」一考(平成24年6月)

 「おもてなし」の「お」は「もてなし」の接頭語で丁寧語である。「もて」は「なす」の接頭語で「以って」から来ている。相手を大切に保持して……するという意味のようである。「なす」は意図的にそのような働きかけをする意味だ。漢字で書けば「お持て成し」となるようだ。お客に対する扱い・待遇。お客に出すご馳走。人や物事に対する振る舞い方。物事に対する扱いとりはからいをいうことである。

 この「おもてなし」には目に見える「もの」と目に見えない「こと」がある。これを日本独特のお茶の世界でみれば、お客様を持てなす際に、四季感あふれる生花、お迎えするお客様に合わせた掛け軸、絵画、茶器、匂い(香)など具体的に体に感じ目に見える「もの」と、「おもてなし」をする人の瞬時に消えてしまう言葉、表情、仕草など目に見えない心を「こと」という。

 最も一般的なのは、料亭・レストランでのお客様の取り扱い方であろう。私の経験した中で有名なある料亭の女将さん。代金を支払うおてもとよりもおてもとのお客様、特に有名な方には目がなかった。これはこれで接待されたお客様は十分満足であろう。又訪れてみたいと思って家路につかれるであろう。これは大変よいことではあるが、おてもとは俺を一体どう思っているのか。馬鹿にしているのではないかと、不満の聲はあちらこちらからよく耳にはいった。おてもとを含めてお客様全員が満足して帰宅されるのがいうまでもなく最高であろう。しかし実際にはなかなかそうもいかないのが常である。

 次に今度は反対に、別のこれもさる名だたる料亭の女将さんだが、お料理が終って最後にご飯をお茶碗に入れてくれる。丁度鯛めしであった。私は気付かなかったが、接待した非常に親しいお客様の友人が、おてもとの君には、鯛の切身を沢山きれいに並べられたが、私のは鯛を別に多く入れるでもなく、杓文字ですくったまま入れられて頂戴した。やっぱりお金を出す人を大事にするのだなあと、聞いたことがある。長い親交のある友人だからこそこんな話をしてくれたのだと思うと同時に、いづれにしても「おもなし」は大変むつかしいことだなあと痛感した。

 今度は著名なホテルのフレンチレストラン、アベックで行く客が大半で、殆ど女性にせがまれて、フレンチレストランを訪れるのが多いだろう。食事が終って帰る時、必ず女性にチョコレートなどのお菓子のおみやげを小箱に入れて綺麗に包装したものをボーイさんが差しあげている。これには男性も、女性が客なのであまり気にしない。男性も是非欲しいと思う程のプレゼントでないからだろう。恐らく女性も又行きたいと男性にお願いして再訪となるのであろう。そういう人間の心理を大変上手に利用している「おもてなし」である。

 要は二つの対称的な日本料理の料亭の女将さん。フランス料理のレストランでの女性への「もてなし」いづれも商売につながるサービスであることに違いない。
これらの接待や待遇の外にも振る舞い方や態度、挙動、処置方等いろいろあるのが「おもてなし」であろう。

 以上回顧した例でも判るように、いづれも自己の商売のため、利益になると信じて必死になって行なっている行動であると思う。しかし、お客様はこれら飲食店からみれば、いづれも大切なお客様であり、お客様全員が満足して頂くことが最善であることはあたり前であり、誰も皆そう思っていることには違いないが、実際に実行に移すことは大変難しいようで各店各人各様で自分が一番良いと信じていることを精一杯行っているのに違いないが、それをみて色々な見方もあり、少し偏見を持ってみている客もいることを肝に銘ずべきだろう。

 日本人は誰にでも自然に親切にする意識や相手を思いやる優しい心をもち、相手へのお世話や気遣いを気付かれないようにし、良い人間関係をつくろうと努力している。この表に見えない裏の心こそ「日本のおもてなし」に大切なことだと思う。接客業だけではない人間関係の良好さのためにもぜひ心しておくべきだと信ずる。

 全菓連理事長・岡本楢雄