視点

TPPと菓子産業(平成24年3月)

―競争力強化の課題―

TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の事前協議が米国など9か国との間で始まった。TPPは関税を原則ゼロとし、取引ルールを見直して域内貿易を拡大しようとするもので、交渉相手の本丸は米国。合わせて中国、韓国などとの二国間交渉も模索されようとしている。アジアの成長をどう取り込んでいくことができるか。グローバル化の流れは菓子産業にとっても大きな環境変化の一つとなりつつある。

まず、TPPが菓子産業に及ぼす影響からみていこう。第1に関税がゼロということになれば、基本的には菓子類の輸入増加は避けられない。菓子類の貿易は現在、輸出が年間140億円で、輸入が409億円。輸入額は近年やや増加傾向にあるが、それでも国内生産額2兆3600億円と比べてみると、僅か1・7%にすぎない。菓子の関税率は、チョコレート菓子10%、ビスケット20%、キャンデー、和菓子などを含む「その他菓子」が25%、米菓35%などとなっている。これら関税が仮にゼロとなったときに輸入はどれだけ増加するだろうか。予測は難しいが輸入品が直ちに国内市場に溢れるような事態は想像し難い。菓子業界での製造技術の向上など企業努力が期待され一定の競争力が維持されると考えられるからである。

第2は、砂糖、小麦、小豆、乳製品等の輸入原材料と国内農業の保護をめぐる問題である。菓子製造にとっていずれも大切な品目であるが、それらの輸入関税は従来から国内農業の保護との関係で製品に比べて高く設定されている。例えば、砂糖についていえば、沖縄のサトウキビ、北海道の甜菜を保護するために輸入粗糖に課徴金600億円が課せられ、実需者価格は割高となっている。その分だけ製品コストが高くなることから、菓子業界では不規則な現行関税制度を改めて農業保護は政府財源等によるべきであるとの主張を行ってきた経緯がある。

とりわけ、中小菓子製造業者の多くは安心で特色ある国産原材料を使って顧客支持を得てきたという実情がある。例えば、小豆についてみると、その供給は国産が50%、輸入小豆25%、輸入加糖餡(原料換算)が25%の構成割合となっているが、現在の関税割当制度(政府が決める輸入枠の範囲内は低率関税が適用されるが、枠を超える分には高率関税が課せられる仕組み)が無くなれば、北海道小豆は壊滅し、カナダ産に置き換わるとの見方もある。地域の原材料を活用し様々な銘菓を育ててきた菓子の文化はどうなるのか。食料自給率、地域経済の維持、安全保障といった面でばかりでなく菓子の原材料という面からも極めて重大な問題である。政府には例外品目の扱いなど戦略的、かつ粘り強い対外交渉を行う一方、豊かで多様な自然条件を活かした生産性の高い国内農業の実現のための具体的な青写真の検討が急がれる。

第3に、経済のグローバル化が直接及ぼす影響を見落すわけにはいかない。貿易立国日本の輸出相手国は、数年前から既に米国に代わって中国がトップを占め、対アジアのシェアは51%を占めるに至っている。それとともに国内製造業のアジアへの進出が加速化している。食品製造業でもアジアへの直接投資が急増し、日本への輸出額は冷凍食品など4000億円に達しようとしている。上海、シンガポールなどでは和食レストラン、和菓子が人気だという。注目されるのはアジア各国において食品の衛生管理のレベルが急速に向上していること。輸送技術も進歩している。安い人件費を武器に菓子の分野でも現地で日本向けの輸出マインド・投資意欲が一挙に高まってくることも考えておかなければならない。

原材料事情、技術移転のテンポ、為替レートがどうなっていくのか。国内ではこだわり商品にはお金を使うが、そうでないものはできるだけ安い商品を選択するという、いわゆる消費の二極化が強まっている。競争力強化の観点から中小菓子製造業者にとっては、例えば『細部へのこだわり』の追求が今以上に重要なポイントになってくるのではないか。人口減少の問題もある。経営の軸足は国内に置きつつも製品輸出の可能性あるいは工場進出はどうかといったグローバルな視点、経営姿勢がいずれ求められてくる。『凡そ世の事物は試みざれば進むものなし』との言もある(福沢諭吉「文明論之概略」)。環境変化に対する攻めの姿勢があってこそ、顧客支持を獲得し続けられることを忘れてはならない。

 全菓連専務・矢部正行