視点

原子時計「ストロンチウム」で六五〇〇万年に一秒の誤差実証(平成23年11月)

―現在の「セシウム」の二倍の精度―

 今年の三月十一日、東日本震災にともなう福島第一原発事故があってから、殆ど毎日新聞紙上を賑わす「セシウム」と「ストロンチウム」といえば、原発の事故で拡散した放射性物質として、今日本では新しく最も知られている元素であるといってもよいだろう。

 福島県の今年の県産米の放射線検査を終えた結果、放射性セシウムは殆どすべて国の基準値である一キロあたり五〇〇ベクレルを下回ったが一部五〇〇ベクレルを出した二本松市の旧小松町地区の水田三枚九アールで収穫した米約四〇〇キロをすべて買い上げ市場に流通させないようにするというニュースがあったり、関東地方の某所にたまった泥から放射性物質のストロンチウムが検出された。民間の分析機関が分析した結果一キロあたり一九五ベクレルと判明した。検出されたのは「ストロンチウム90」であった。

 ストロンチウムは発見されたスコットランドの場所の名前で、アルカリ土類金属に属する銀白色の金属元素であり、記号はSr、原子番号は38、常温で水と反応し、水素を発生する。炎に深紅色を与えるので花火に使用される他特殊合金などに応用されている。一八〇八年イギリスの科学者H・アービーがはじめて単体を抽出した。ストロンチウム90はストロンチウムの同位元素であり、核爆発によって生ずる人工放射性同位体の一で、半減期28年、人体内で骨に集まり、白血病の原因となる。現在ではベータ線源などに利用されている。今までは福島第一原発から一〇〇キロ圏内で検出されていたが、約二五〇キロも離れた関東地方の某所では初めてで、四―五月に福島市内で検出された七七ベクレルと比べても二倍以上高い値だ。現場は築七年の五階建マンションの屋上で同じ堆積物からは一キロあたり六万三四三四ベクレルのセシウムも検出されたということである。

 セシウムもアルカリ金属元素の一、記号はCs、原子番号は55、銀白色の柔らかい金属で、空気中では酸化、水と反応して水素を発生し、光電管などに利用されている。一八六〇年ドイツの化学者ブンゼンが発見し、スペクトルに現れる線の青灰色の色にちなんで命名された。セシウム137は、セシウムの人口放射性同位体で、核分裂で生じ、半減期30年、遺伝障害の原因となる。ガンマ線源として癌の治療に利用されている。

 ところが、これらは正確な時を刻むのに欠かせない元素である。一秒はセシウム133の放射する電磁波が九一億九二六三万一七七〇回振動する時間と定義されている。セシウム原子時計は三千万年に一秒しか狂わない、最も正確な時計であり、日本標準時計のもとでもある。このセシウム133は天然に存在し、放射能はない。私達を悩ませているのは、ウランの核分裂でできる同位元素で、中性子が少し多い。

 一方、やはり放射能のないストロンチウムを使った時計は、セシウムより更に正確な時を刻むので次の世代の原子時計のホープである。

 東京大学の香取秀俊教授と情報通信研究機構の井戸哲也主任研究員らはこの九月はじめにストロンチウムを使った「光格子時計」という新しい原子時計で、六五〇〇万年に一秒しか狂わない世界最高の精度を実証された。パリの国際度量衡委員会は、一秒の定義の改定をめざしており、その基準として世界のライバルに一歩先んじた形だ。日本生まれの時計が時の基準になるかもしれない。

 この二つの元素が放射能だけでなく、明るい話題で語られる日が一日も早く待ち遠しく思はれる。

 全菓連理事長・岡本楢雄