視点

すぐに役立つことはすぐに役立たなくなる(平成23年5月)

自分で見つけたことは一生の財産になる

 東京大学入学者数で有名な兵庫県神戸市の灘中学、高校で昭和初期から50年間、71歳まで教壇にたたれた橋本武先生、私の息子の1年先輩の担任であり、後に同校の教頭となられて退任されたそうであります。その橋本先生の授業の特色は、中学3年間で2百ページ余りの「銀の匙サジ」を読む授業であります。この「銀の匙」は明治生れの作家中ナカ勘助さんが少年時代をつづった作品で徹底的にゆっくり読む、遅読ぶりも「奇跡の教室」として小学館から出版されたのでありました。語句を一つ一つ調べて体験し、考えるというやり方であります。例えば、「干支」の「丑ウシ」の字が出てくれば十干ジッカン即ち、甲コウ、乙オツ、丙ヘイ、丁テイ、戌ボ、己キ、庚コウ、辛シン、壬ジン、癸キの総称で五行の木キ、火ヒ、土ツチ、金カ、水ミズと結びつけてそれぞれ「干支」を当て、きのえ、きのと、ひのえ、ひのと、つちのえ、つちのと、かのえ、かのと、みずのえ、みずのと、と読む。又十二支は暦法で、ね(子シ)、うし(丑チュウ)、とら(寅イン)、う(卯ボウ)、たつ(辰シン)、み(巳シ)、うま(午ゴ)、ひつじ(未ビ)、さる(申シン)、とり(酉ユウ)、いぬ(戌ジュツ)、い(亥ガイ)の総称で十干と十二支合わせると六十の組合せが出来、生まれ年などに配したりするのです。これから丙午ヒノエウマとはこの年には火災が多く、又この年生まれの女は夫を食い殺すという俗信があり、最近では昭和41年生であり、次は60年後になるのであります。又野球で有名な甲子園球場は大正13年に出来たのですが、その年が甲子キノエネであったので甲子園と名付けられたという由来まで説明され、文中の主人公が駄菓子を食べれば、駄菓子を買い集めて試食したり、お正月の凧揚げやカルタ取りもしてみるという授業だったそうです。

 1ヶ月に数ページしか進まないので不安がる生徒に「すぐに役立つことはすぐに役立たなくなる。自分で見つけたことは一生の財産になる」と横道こそが狙いで静かに話されたのです。
 このように皆様も、色々新しい事を学ぶと思いますが、常にこの橋本先生のように、どこまでも掘り下げて理解し、納得出来るまで研究して下さい。これが先生のいわれる一生の財産になると信じるからです。

 東の開成、西の灘、といわれる超進学校でこんな教育をして多くの東大合格者が出るのか疑問にも思うのですが、いかんせん、現役で約半数が東大に入学する灘中、灘高なのです。それも理科3類、医学部進学の部門に大量入学する学校です。どうか信じて、勉強に力を出して下さい。必ずや明るい未来が待っていてくれると信じて頑張って下さい。

 全菓連理事長・岡本楢雄