埼玉県菓子店

2010.12.15

小松屋本店

東秩父村に219年伝わる菓子を見た

小松屋本店 U字工事に代表される県民の世界観によれば、大都会とは埼玉と宮城のこととか。(東京は雲の上で対象外)しかし、彼らをして「行くだけで緊張する」大都会埼玉に「村」が生き残っているのを御存じか。(上意下達・長いものに巻かれ好きな栃木には村はありません)その埼玉県唯一の村に、なんと栄光の「選・和菓子職」第一回認定十九名のうち一人が生息しているらしい。にわかに信じがたい情報を確かめるべく斎藤は東秩父村に向かった。村と選・和菓子職の組み合わせ、この謎は三月でブロック長を降板する斎藤には最後のミステリーツアーである。

 のどかな山里の入り口に株式会社小松屋本店はドンと存在していた。和菓子のみの構成、人口三千人少々の村には充分過ぎる存在感だ。

 ほとんど参勤交代の大名が泊まる陣屋のような迫力である。他に近隣に三店舗を有するという。にこやかに出迎えてくれたのは十一代目の豊田健氏である。創業は一七九一年寛政三年、寛政といえば老中松平定信が厳格な改革を進めていた頃である。初対面の豊田氏からはオーラが出ていた。伝統が醸し出す気品、両手が放つ技能、商工会青年部に消防団など過疎地を支える気概、それらが秩父の清涼な空気と混ざりあって私に放射されているのだ。 

小松屋十一代目、 豊田健氏 看板商品は「つる」である。素朴な黒糖の菓子は現代の感覚では大き目に思えたが、いざ一口ほうばるとついつい四口で食べ終えてしまった。所要時間約25秒である。はじめてにしてこみ上げる懐かしさ、きっと前世で食べたのかもしれない。まさに魂のルフラン、二百年を超えて支持される味である。

 名前の由来を尋ねると「よくわからないんです。なにぶん昔で」と心底すまなそうな顔の豊田氏。針小棒大を心がけ伝説を伝統に昇華させてきた和菓子業界にあって、なんとも聖人のような話である。そこに生き残りのヒントをみた斎藤であった。母上の生家が近所という作家の森村誠一氏も「つる」の思い出を寄稿されている。まさに東秩父のソウルスイーツである。

 店内はマニュアルでは無いおもてなしの心に溢れ来店客にはまずお茶である。秩父山系がもたらす天然水でいれてもらったお茶はことのほかおいしかった。この水でお菓子が作れてありがたいですと豊田氏。そこに「村」の誇りを垣間見た気がした。

 昔からの製品は製法を守り続け、一方で若者の趣向にあった製品も数多く開発している。江戸時代の空気を濃厚に醸す店内で、プリンや生クリーム大福、餡入りロールケーキが存在感を放っているのも魅力である。

 地域で愛される菓子は「思い」だけでは作れない。お客様の支持が必要だからである。

 でも「目指す」ことは誰でもいつからでも可能だ。熱意と継続の先に待つところの見本がこの店にはある。

 関東甲信越ブロック長・斎藤友紀雄