富山県菓子店

2020.04.15

ひいなと雛形

和菓子と西陣織の共同創作

千代見草 思い起こせば2017年の初夏に開催された、地元の呉服商である牛島屋様の代替わりの展示会「継承展」での出会いが始まりでした。いつも私にとっての学びの機会をいただく牛島屋代表の武内孝憲様のお誘いで、会場に設えられた空間にて上生菓子の実演を行いました。その際に「お店の代を繋がれて、千の代までも繁栄されますように」という想いから、永遠を表す三種の菊細工を施した図案に「千代見草」と銘を付けて御用意しました。

御招待されて列席、展示をされておられた西陣織帯作家で織樂浅野代表の浅野裕尚様が私の実演をご覧になり、お菓子を召し上がっていただきました。お菓子作りや細工道具のお話から「千代見草」の銘の由来まで、ゆっくりとお話をさせていただき、また浅野様の作品に込める想い、美意識についてのお話を伺い、深く感銘を受けました。

「千代見草」の帯 継承展から1年余り経った頃、浅野様から「千代見草」の上生菓子と、当店に長く伝わる「細工ベラ」をモチーフとした帯の創作をしたいという御依頼をいただき、さらに個展にて作品と菓子を共に展示してギャラリートークを企画したいという大変光栄な御相談をいただきました。その後には工房にもお招きいただき、進行中の作品やイメージの基となる膨大な数の歴史的資料、そして創作への熱い思いを伺い、自分も創作について大きな刺激をいただきました。個展に向けては、帯とお菓子の創作に共通する大切なこと「ひいな=小さくかわいらしい様」「雛形=ものの様式や形式を示す手本」をテーマに定めて、「菓子から帯」「帯から菓子」「雛形から帯と菓子」という3パターンの創作の流れを紹介する事に決まり、各々制作が進んでいきました。

まず「千代見草」の帯を創作していただく中で驚いたのが、煉切のぼかし方にまで着目していただき、その方法を織で再現するという技法的に難しい事に挑んでいただき、またお菓子の持つ雰囲気を再現するために大変な試行錯誤を重ねられたと知り、和菓子職人として胸が熱くなりました。細工ベラの方は「かたち」という作品名で制作していただき、長い年月をかけて先人達に磨き上げられた道具が持つ美しさを、重層的な奥行きを感じるモダンな表現で仕上げていただき、自身の使う道具が持つ「用の美」を改めて教えていただきました。一方、私のお菓子の制作も、織作品の持つ繊細な雰囲気、そして近景と遠景にした際に色彩までも感じられるような表現の多彩さに刺激をいただき、普段とはまた違う上生菓子の表現が出来たと思っています。

西陣織帯作家 浅野裕尚様(右)と引網香月堂 引網康博氏(左) 自分とは違う世界の素晴らしい表現者の方との「共同創作」のような体験から、自分の創作や表現、そこに込める考えまでも輪郭が際立って来るような感覚を得られました。小さく限られた範囲の中で削ぎ落とし、そこから世界を膨らませるような創作の喜びを感じる出来事でした。このような素晴らしい経験を重ねて、さらに和菓子職人としての表現を深めたいと願っています。

 有限会社引網香月堂・代表取締役・引網康博