各地の菓子店探訪
静岡県菓子店の投稿

静岡県磐田市和菓子司「扇月」

感謝と美味しさを求めて!

三代看板娘の揃い踏み 和佳恵さん・長女、歩希さん・母、明美さん 和菓子司「扇月」は静岡県西部地区、サッカーで有名な磐田市、JR磐田駅からほど近い所にある。日除け幕の大きな暖簾が目印、お店に入ると店主、磯村和佳恵さんの歯切れのよい明るい声が迎えてくれる。お赤飯、豆大福、薯蕷饅頭、黄味時雨、栗むし羊羹など朝生菓子を主体に父の代からのお菓子が行儀よく陳列され、ケースの隅には季節のメッセージカードがそっと置かれている。

 製造したものは当日販売に徹し食品添加物の使用や冷凍庫の活用はしていない。初代の祖父は神戸で修業の後、昭和元年、現地で開業、戦争で故郷に戻り戦後、浅羽町に卸専門店を開業、昭和33年現在地に祖父と父(二代目哲夫氏)で和菓子司「扇月」を開業した。三代目和佳恵さんは一人娘として両親の愛情を一身に受け、幼い時から両親の手伝いをしながら父親の仕事も良く見てきた。短大で経済を学んでから、自分の意思で菓子の専門学校に進み、当たり前のように家業を継いだ。父親は子どもの将来は本人の自由と思っていたが、一緒に働いてくれることを大変喜んでいた。製造と同時に母を助けて販売にも精を出した、そのお陰で三代目を継承してからも常連客は変わらなかった。結婚では家業の継続が問題になったが旦那様がお婿さんとして磯村家に入り菓子職人を目指すとまで言ってくれたがそのままサラリーマンを続けてもらい家業は和佳恵さんが守ることに。また、父親の逝去で自信を失くした時は剣道4段の達人でもあるご主人から「お前はそんな中途半端な気持ちで父親の意思を引き継いだのか」と叱咤激励されて奮起した。家庭の主婦と母親、それに菓子職人と3つの顔を駆使して毎日を頑張っている。店は10時から夕方の5時まで営業、休日は毎週火・水曜日の週休2日と自分や家族の生活のバランスを考えお客様の理解も頂いている。

大きな日除け幕暖簾が看板の店舗 主力商品の赤飯と豆大福を遠くは名古屋から定期的に通ってくれるお客様もいる。常にわざわざお店に買いに来て下さるお客様に感謝し、美味しいお菓子を召し上がって頂きたいと願いながら菓子作りをしている、だから毎日の仕事が楽しい。美味しいお菓子は衛生的な環境からと仕事場も塵一つもなく整理整頓され職人としての気持ちが良く表れている。ご主人の大きな支援を受け、将来、一層の和菓子職人を目指し和菓子のことなら何でもできる職人に、特に上生菓子の技術習得に意欲を示している。販売でも、いち早くスマホ決済を導入するなど積極的だ。目的を持って頑張る人は元気で明るく美しい。

 父親と同様に組合活動にも熱心に参加し、現在、磐田菓子組合副組合長に就任している。会計も女性が務めるなど女性パワーさく裂、役員が同年代ということもありコミュニケーションも抜群、研修会や講習会の開催は勿論、平素の交流も盛んでお互い協調性のある中で切磋琢磨している。人生に欠かすことのできないお菓子、後継者がなくて廃業するお店が増えているが、若い人が魅力を実感できる、時代に合った営業ができれば御菓子屋は実に夢のある楽しく面白い商売である。

 静岡県菓子工業組合顧問理事・森田紀