各地の菓子店探訪
秋田県菓子店の投稿

菓子司つじや

秋田県南の引き菓子文化を守る

とうふかまぼこ 秋田県南にある大仙市大曲は、8月最終土曜日に70万人を集める日本一の花火大会「大曲の花火」で有名です。国内最高水準の技術を誇る花火製造会社が5社もあり、日本一の花火のまちと称されています。

 「菓子司つじや」はその花火のまちで、五代・150年にわたり秋田県の郷土菓子「とうふかまぼこ」「とうふカステラ」「三杯もち」を守り続けています。これらは江戸時代から冠婚葬祭の引き菓子として欠かせぬものです。

三杯もち 式場やケータリングがなかった江戸時代の冠婚葬祭では、料理・引き菓子作りから着付けまでの一切を取り仕切る町料理人(現代の出張料理人)が呼ばれ、近所の女性達の手伝いのもと地主さんの屋敷を借りて執り行われていました。当店の初代・辻ジュンは、地域で一番美味しい引き菓子を作ると評判の町料理人でした。大正3年には店舗を構え一般のお客様へも販売するようになりました。

 「とうふかまぼこ」はその名前から「練り物の惣菜=おかず」を想像しますが、秋田では伝統的な「お菓子」です。豆腐と白身魚のすり身をなめらかに混ぜ、甘く味を付けて整形し蒸し上げたものです。伊達巻きのような見た目と甘さと言えば分かりやすいでしょうか。「とうふカステラ」は同様の原料を焼き上げたものです。

菓子司つじや 昔から秋田県の内陸部は河川へ遡上する鮭・サクラマスなどが豊富であり、大曲の鮭の孵化場は120年の歴史を誇ります。大曲は米と共に大豆の産地でもありました。大豆から作る豆腐と川魚のすり身を上手に組み合わせた郷土食文化です(現在は川魚ではなくスケトウ等のすり身を使用)。

 江戸時代から秋田県には「ねばな餅(=現在のわらび餅)」をルーツとする、地元で「みそ」「はなみそ」と呼ばれる味噌で味付けた餅菓子がありました。三杯もちはそれらをベースに小豆餡を加えて作られたものです。原料を茶碗で一杯二杯と計ったことが三杯もちの名の由来です。

 口に入れるとモチモチとお餅の食感ですが、噛めば噛むほど小豆餡の風味が溢れ、飲み込む時には餡・羊羹のように感じられる秋田独特の餅菓子です。外郎とも羊羹ともゆべしとも異なる、例えが難しいですが「お餅な羊羹」という表現が合うかも知れません。

 従来「とうふかまぼこ」「三杯もち」は伝統的な柵状の一本物がほとんどでしたが、15年ほど前から小包装の一口タイプの割合が増加しています。三杯もちについては、モチモチの食感が特徴ゆえとても軟らかく粘つき、小型化・自動包装化は非常に難しいものでした。2016年に包装機械メーカーとフィルムメーカーの協力を受け柔らかく小さな餅も包める自動包装機をようやく実用化でき、現在は月間2万個を製造しています。未だ需要に追いついていないため、今後も食べやすい形状や包装の開発・改良を続けていきます。

 商品の成り立ちや原料配合、製造方法、地域の菓子文化をしっかり守り続けることが当店の第一義ですが、包装形態や大きさは社会と消費者のいまの嗜好に合わせねばなりません。より食べやすく、買いやすく、渡しやすいように改良の手を休めず、今後も郷土菓子文化の伝統を繋いでゆきます。

 秋田県菓子工業組合大仙支部員・辻卓也