各地の菓子店探訪
山口県菓子店の投稿

草紫庵やまぐち

こころの中のお菓子屋

三代目の木元伸二氏と奥様 昼夜を問わず車が行き交う、幹線道路国道3号線を北上すると、鹿児島県立短期大学前にかかる歩道橋のすぐ近くに、「草紫庵やまぐち」という心惹かれる素敵な名前のお菓子屋さんがあります。

 店主は木元伸二氏。初代は店主の祖父で、店名は「山口菓子舗」でした。三代目として氏が受け継ぐときに、初代の意思を尊重し「やまぐち」の名を残しつつ、新たに「紫色の野の花が揺れている」素朴で優しいイメージ「草紫庵」を冠したそうです。まさに氏の穏やかな風貌と優しい人柄を表現した、印象的で粋な店名です。

 木元氏は、その高い技術力を見込まれ、城西高等学校や今村学園ライセンスアカデミーの和菓子課の講師も務めるとともに、町内会長、保護司、食協の役員なども引き受けています。また青少年の見守り隊として、横断歩道で子どもたちの登校を見守るボランティア精神豊かな姿には、頭の下がる思いです。

 看板に書かれている「こころの中のお菓子屋」とは、鹿児島市在住の詩人「夏目 漠」さんが、このお店のことを書いた詩の一編です。お店が地域に根付き、深く愛されていることの証でしょう。

草紫庵やまぐちのお菓子 かつて城山の麓のこの地には、歩兵四十五連隊がありました。軍事練習はときおり脱走兵が出るほど、それはそれは厳しいものだったそうです。面会に訪れるご家族も、帰りには後ろ髪をひかれる思いだったことでしょう。そのご家族を癒すお菓子として、代表銘菓の「四十五連隊」が生まれました。三代目になった現在でも、二度と軍靴が響くことのないようにと、鎮魂と平和への祈りを込めて、作り続けられています。

 また、室町時代のことですが、日本の朱子学の開祖であり、晩年鹿児島に移り住み、薩南学派の祖として、江戸時代から明治維新までの薩摩の精神風土を作ったと言われる桂庵禅師が、この地に住まっていました。禅師の没後五百年祭を機に、偉業を偲び生まれたお菓子が「桂庵まんじゅう」です。

 このように地域の歴史を大切にした菓子作りの一方で、大変人気のあるお菓子に「丸ボーロ」があります。トッピングは、黒糖・クルミ&レーズン・甘夏・しょうがホンダンがけ・りんご・黒ゴマの6種類もあり、お話を伺っている最中にもお客様が買い求めていらっしゃいました。この丸ボーロは、しっとりと柔らかい独特の食感で、朝食としてパンの代わりに召し上がる方も多いそうです。何度も何度も嫌になるほど試作して、試行錯誤の末にできた自慢の商品です。

 優しい笑顔の奥様と二人三脚、今後ますますのご活躍を期待しています。

 鹿児島県菓子工業組合事務局長・惠島理子

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