各地の菓子店探訪
栃木県菓子店の投稿

山本総本店

和菓子作り体験を続けて

山本総本店 きっかけは、お茶の先生のお話でした。高校の茶道部で生徒さんを長くご指導なさっている先生が、困った様におっしゃいました。「茶道部に入って来る生徒でも、生菓子を見たことも食べたこともないって言うのよ。部活動の練習で初めて生菓子を前にして、私はあんこは食べられないとか、練り切りは何でできていて、どうやって作るか説明しても伝わらないし、山本さん生徒達の前で生菓子を作って見せてくれないかしら」と。先生も困っていらっしゃいましたが、私も愕然としました。高校生位のお子さんをお持ちのご両親が、ご家庭でほとんど和菓子を召し上がらないと言う事でしょうか。このままでは本当に和菓子がなくなってしまう、と強い危機感を持ちました。それと同じ頃に店にいらしたお客様が、ケースに並んでいる上生菓子を見て「どうせ機械で、スイッチひとつ押せば出来ちゃうんだろうね」と、おっしゃいました。私ども和菓子屋は、当たり前過ぎて、草もちも柏餅も上生菓子も、職人の手作りだという事を言わずに過ごして来ましたし、お客様も当たり前に、そう思って下さっていると思い込んでいました。

和菓子作り体験 まずお子さん達に職人の仕事を見てもらい、和菓子の文化や手作りのよさ、おいしさを感じてほしい。和菓子が特定の方達の特別な食べ物ではなく、皆さんの普段の生活の中にある景色であってほしい。その一心ではじまった和菓子作り体験は、平成17年頃から13年程続けています。先生方やご父兄の口コミから、いろいろな学校に呼ばれる様になり、地域の育成会や老人クラブさんの集まりでも楽しんでいただく様になりました。

 高校の茶道部さんのお稽古に使っていただきたいと、100円で買える月替わりの和菓子を考え、上生菓子も遊び心を楽しんでいただきたいと、季節ごと、イベントごとに節分、おひなさま、子供の日、母の日、クリスマス、など次々と替えて行きました。お茶の先生方が多いと言う土地柄もあり、ケースに並ぶ上生菓子は年間80種類ほどになります。気が付いてみると、高校生の娘さんがお母様を連れて来店され、ケースの前でお母様に説明なさっていたり、学校で和菓子作り体験をしたという小学生がお母様と一緒に来店され、作ってきた練り切りを家族で分けたら、ほんの少ししか食べられ無かったけれどおいしかったとおっしゃって買って行かれたり。こんな楽しい努力を続けているうちに、地元のお客様が普段の生活の中で、何気なく生菓子をお求め下さる様になっていると思います。「妹が来るから」と2個。「お父さんにバレンタインに」と3個。そして何よりも、職人達がとても嬉しそうにお客様に接している事に驚きました。自分達の仕事を皆さんに見ていただき、認めてもらえる。その喜びが大きな生き甲斐になっている気がします。新たに、楽しく美しい上生菓子を生み出しています。これからも、地域の皆様のすぐ近くにある和菓子であり続けたいと、願っています。

 栃木県菓子工業組合栃木支部・今井悦子