各地の菓子店探訪
山口県菓子店の投稿

家族で湯本温泉の菓子を守る店

吉冨幸進堂

定番のわっふると温泉まんじゅうと創作菓子 日本海に面した海を望む豊かな自然景観を持つ山口県長門市。

 1427年に開湯した湯本温泉は長州藩の藩主が湯治に訪れたと言う歴史を持つ長門市五名湯を代表する温泉街です。長門市は日露首脳会談の舞台となったこともあり、またCNNの日本の最も美しい場所31選に選ばれた元乃隅稲荷神社もあり、現在県内で随一注目を集めている地域です。

 その湯本温泉にある吉冨幸進堂。三代目の幸二さんが広島の修業先から戻ると同時に始めた「わっふる」。発売から30年を経過し、湯本温泉スイーツと言えばわっふる!と誰もが知るお菓子となりました。温泉旅館女将のオススメ記事と食べログの口コミの多さが店と商品への信頼を物語っています。

 わっふるは温泉帰りに安く買えて食べられる普段のおやつであってほしい、また地元のなじみ客のことも考えて一個115円という手軽さですが、作り置きはせずできたての味にこだわります。原料や包材が高騰する中にあっても値上げは考えられないと言いながら、温泉街という立地もあり不眠不休でご家族が菓子づくりに励んでいます。我が子には苦労させたくないという菓子店も多いですが、このほど四代目の孝次さんと一緒に仕事をすることになりました。「後継者不足で廃業が多い中、ありがたい。でも菓子屋の魅力を伝えないと子供は継がない。うちは小さいうちから話してきた」と幸二さんは言い「基盤があるのだからやったらやっただけ自分のものになる」と孝次さんは答えます。聞くと忙しく立ち働く両親の背中を見て、幼い頃から店番や配達を手伝い跡継ぎは自分であると認識していました。さらに菓子機械の修理は自分でする、との思いから高校は機械科で学んだのち修業に出ました。年齢的に遊んでいる友達をうらやましく思わないかと尋ねると「忙しいときは仕方ない」と菓子屋に対する心意気は両親の教えと修業先で培ったものです。

 親子で仕事をするにあたり「ひととおりの技術があるから好きなお菓子を作ればよい」と父は言い息子の必要とする餡を炊き上げ、店先には不動のわっふる、わっふるに次ぐ人気のふわふわの黒糖生地に生クリームと餡を包んできなこをたっぷりまぶした黒糖ろぉる、定番の温泉まんじゅうの他に若い感性で創造にあふれた季節感が伝わるお菓子が並びます。地元、俵山の栗を使った栗きんとん。数多くは作れないけれど、手間を惜しまず美味しく仕上げることも地域への恩返しのひとつです。

 まだ23歳の四代目は菓子屋の舞台で可能性を広げながら、父親が倒れる日まで一緒に仕事ができたら本望だと言います。あとは良縁を繋いで両親と共に暖簾を守ること。「早い方がいいけれど」と言う父の隣で「まだまだです」と微笑みながら、しっかりと将来を見る若い瞳が輝いていました。

 山口県菓子工業組合専務理事・恒松恵子

 

店舗データ

吉冨幸進堂のおふたり吉冨幸進堂
山口県長門市深川湯本1031-2
TEL:0837-25-3971

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