各地の菓子店探訪,埼玉県菓子店

2016.04.18

小鹿野町お菓子司㈲信濃屋

名水の郷の茶ぼうず

「茶ぼうず」(左)と「秩父嶺しずく」(右) 古くから茶道や酒造で珍重される名水と呼ばれる水があります。江戸期には遠方の名水を使用した高級料亭の「一両二分の高級茶漬け」の逸話も残されています。今回はそんな名水の郷小鹿野町で営業されてる(有)信濃屋さんの銘菓「茶ぼうず」と「秩父嶺しずく」を紹介します。

 環境省選定の名水は昭和平成併せて全国200ケ所在りますが飲用には煮沸が必要とされるものもあります。そのなかで小鹿野町毘沙門水はそのまま飲める軟水の湧水で今や貴重な存在です。小鹿野町は奥秩父地方最深部に位置し昔から中仙道の裏街道として険しい峠を越えて長野県蓼科方面に抜ける武州街道(現国道299号)沿いの山郷です。今も昔の面影を残す民家や商店が点在し、小鹿野歌舞伎が有名で今も常設歌舞伎舞台が六つ健在です。信濃屋さんはそんな街道沿いにあります。信濃石という字の場所で昔からの往還が伺えます。創業は明治12年頃信州から武州街道を旅してこの小鹿野に居を構えた初代が茶屋を開業し酒饅頭を製造販売したところ人気を博しました。屋号は信州から来たので「信濃屋」としたそうです。現在は五代目中山泰夫さんが経営しています。

 昔の山岳越え旅は容易でなかったです。そんな旅の心を菓子の型に現したのが看板商品「茶ぼうず」=餡入り落雁と「秩父嶺しずく」=松露です。ぼうずにはおもてなしの心の意味も有るそうで旅人をもてなす心。松露は岩雫が一滴落ちるイメージで喉を潤す清涼感を形にしています。両製品共通で最大の特徴は自家製餡の餡です。大量の水を必要とする製餡作業で使用する水は全部が名水の郷の水です。雑味の無い旨味がストレートに現れた餡に仕上げてます。都市部では如何ともし難い菓子製造と水の問題で大きなアドバンテージを持ってます。

 酒饅頭屋から半生菓子に主軸を移した経緯を聞きました。小鹿野の人たちは今も昔も和菓子を買いに来るとお茶を入れて貰って世間話をしながら纏め買いをしていくのが普通です。そのため無添加で賞味期限が長い菓子のほうが喜ばれます。段々と半生菓子主体になったそうです。今も夏限定で酒饅頭も製造しこれも人気があります。

 出発が茶屋なので茶の心を忘れず奉仕を心掛けたいと言う事で、店舗の天井は無垢材一枚板の茶室風造りで外見は歌舞伎舞台風の凝った造りです。値段は両製品とも1個140円です。小鹿野町は鉄道が無い故にバイクツーリングではメッカですが無理な観光地化で荒れていない場所です。奥秩父や蓼科への旅を思いついたら是非お立ち寄り下さい。

 埼玉県菓子工業組合副理事長兼専務理事・中島祥夫