各地の菓子店探訪,岐阜県菓子店

2015.10.19

松栄堂 二代目 中島和志

鯛の落雁の新しい売り方

鯛落雁の型 岐阜県加茂郡七宗町と言っても、ご存じの方は少ないでしょう。全国的には全くの無名な田舎の町です。地質学的には、日本最古の石が発見された土地であり、全国的に見ても珍しい「甌穴群」がありますが、普通の人にとっては全く関心の無い事でしょう。それよりも、隣に全国的にも名を知られた温泉地を抱えた下呂市がある事の方が有名です。

 その無名の地に父が和菓子店を開いたのは今から五〇年前の事でした。愛知県犬山市の老舗で修業し、その後も名古屋市内の名店を二軒ほど回ってから「職人だけでは結婚もできない」と開業する事を決意し、生まれ育った七宗に帰ってきたのだそうです。その頃は卸半分店売り半分くらいの割合で、とても独立した店舗だけではやっていけなかったそうです。

 しかし、その後何度かに分けて店の前の県道が整備され、下呂温泉へのアクセスが次第に良くなるにつれお客さんも増え、より沢山の通り客を引き込むために同じ町内の現在の場所に移転しました。駐車場を拡充し、店内も広く取ってお抹茶やぜんざいなどを召し上がっていただけるようにもしてきました。

 その間には、地元の名産であった松茸を模した洋風和菓子の「かぶちまつたけ」のヒットがあり、卸でもドライブインでのお茶饅頭のヒットがあったお陰で現在までやってこられたのだと思います。

約70㎏の鯛落雁 現在は、岐阜市の名店・香梅で修業してきた二代目に代替わりはしましたが、後期高齢者となってしまった今でも意気軒昂、毎日仕事をしています。

 日本各地の大多数の和菓子屋さんで言える事かも知れませんが、主に若年層において和菓子離れが進んでいます。田舎では若い人自体が減ってきています。お客さんが減り、客単価も落ち、頼みの綱の店の前の主要県道も、より早く移動できる高速道路や国道の整備もあって以前ほどの賑わいはありません。

 しかし、それを逆手にとって、国道沿いの道の駅に卸を始めたり、若い人がいなければと老人ホームへの卸も始めました。それなりに成果も出始め、特に老人ホームへは毎月毎月新しいお茶菓子を作る事に、基本に立ち返る事の大切さと新鮮さを感じています。

 以前は結婚式によく使われるため、沢山作っていたお菓子に鯛の落雁があります。しかし、最近は結婚式で使われる事はほとんどありません。

 確かに現在のトレンドからは外れてしまったお菓子ですが、当店では大きさを色々作ってお客様のニーズに応える事ができるようになった事、原材料を見直して味や食感の向上を図った事が功を奏して、現在でも売れ筋商品となっています。特に五尺五寸(約170㎝)で約70㎏の鯛落雁は、型は作ったものの売れないだろうなと思っていた所、まさかの受注!そして販売。常識を越えた所にも商機はあるのだという事を教えてもらいました。現在二代目には二人の男の子があり、長男は小学校の将来の目標で和菓子屋と言ってくれたようです。その夢をつぶさないためにも、頑張って和菓子屋を続けていきたいと思っています。

 岐阜県菓子工業組合・松栄堂 中島龍雄